Validium と Volition
ZK Rollup と同じ validity proof を用いながらデータをオフチェーンに置く Validium と、DA をユーザが選択できる Volition を解説。 StarkEx / Immutable X の採用事例と DA スペクトラムを整理する。
article technology ja ZK Rollup と同じ validity proof を用いながらデータをオフチェーンに置く Validium と、DA をユーザが選択できる Volition を解説。 StarkEx / Immutable X の採用事例と DA スペクトラムを整理する。Validium と Volition
Validium は ZK Rollup と同じ有効性証明(validity proof)でトランザクションの正しさを保証しながら、トランザクションデータをオフチェーンに保管することで L1 コストを大幅に削減するアーキテクチャである。一方 Volition は、ユーザが資産や取引ごとにデータをオンチェーン(Rollup モード)に置くかオフチェーン(Validium モード)に置くかを選択できるハイブリッドアプローチであり、StarkWare が StarkEx v4.5 で実用化した。これら 2 つのモデルは「証明の安全性」と「データ可用性コスト」のトレードオフの中に位置し、NFT ゲームや高頻度取引など特定ユースケースで優位性を発揮する。
Validium:validity proof × オフチェーン DA
ZK Rollup との違いを理解するには、まず ZK Rollup の構成要素を分解する必要がある。ZK Rollup は次の 2 つを L1 にポストする。
- トランザクションデータ(または圧縮した状態差分)— DA(データ可用性)担保のため
- 有効性証明(SNARK / STARK)— 計算の正しさを数学的に保証するため
Validium は 2 番目の有効性証明だけを L1 にポストし、1 番目のトランザクションデータをオフチェーン(データ可用性委員会 DAC やオフチェーンストレージ)に置く。これにより、L1 のデータ投稿コスト(calldata・blob 費用)が消えるため、スループットは約 9,000 TPS 以上に達し、手数料はさらに低くなる。
有効性証明の役割:validity proof があるため、バリデータが不正な状態遷移(残高の改ざんなど)を公開しても、L1 コントラクトがそれを拒否できる点は ZK Rollup と同じである。攻撃者が不正な証明を生成することは暗号学的に不可能であり、トランザクションの計算正確性は L1 で保証される。
DA をめぐるリスク:DAC と Liveness 問題
Validium の弱点はデータ可用性にある。トランザクションデータがオフチェーンに存在するため、以下のリスクが発生する。
DAC(Data Availability Committee)による withhold リスク:多くの Validium 実装では、信頼できる参加者グループ(DAC)がオフチェーンデータを保管・署名する。DAC がデータを意図的に隠蔽(データウィズホールド攻撃)した場合、ユーザはチェーンの最新状態を再構築できず、自分の資産を証明して出金できなくなる可能性がある。
Liveness リスク:DAC が停止・障害・共謀した場合、データにアクセスできなくなる可能性がある。
これらは ZK Rollup には存在しないリスクである。ZK Rollup ではすべてのデータが L1 上にあるため、誰でも状態を再構築できる。Validium はこの安全性を DA コスト削減と引き換えにするトレードオフである。
外部 DA レイヤー(Celestia、EigenDA、Avail など)の成熟が進むにつれ、「L1 ではなく専用 DA チェーンにデータをポストする Rollup」が登場し、Rollup と Validium の中間に位置するバリエーションも増えている。
Volition:DA をユーザが選択するハイブリッド
Volition は StarkWare が設計した概念であり、同一アプリケーション内でユーザが資産・取引ごとに DA の置き場所を選択できる。
- オンチェーン(Rollup モード)を選択した場合:データは L1 にポストされる。高い安全性・出金保証が得られる代わり、コストが高い。
- オフチェーン(Validium モード)を選択した場合:データは DAC に保管される。コストは低いが DA リスクを受け入れる。
この「同一コントラクトで DA を選択可能」という設計により、高価値資産はオンチェーン DA で保護しつつ、高頻度・低価値の取引(NFT のロール・ゲームアイテムの移動など)はオフチェーン DA でコストを最小化するといった使い分けが可能になる。
Volition は StarkEx V4.5(2021 年 6 月)で導入され、ユーザのニーズに応じた柔軟な安全性・コストの選択を提供している。
DA スペクトラム:Rollup・Validium・Volition の連続体
DA の配置場所を軸にすると、スケーリングアーキテクチャは連続したスペクトラムを形成する。
| アーキテクチャ | DA の場所 | コスト | セキュリティ |
|---|---|---|---|
| ZK Rollup / Optimistic Rollup | L1(calldata / blob) | 高 | L1 が保証 |
| Volition(Rollup モード選択時) | L1 | 高 | L1 が保証 |
| Volition(Validium モード選択時) | DAC(オフチェーン) | 低 | DAC への信頼が前提 |
| Validium | DAC(オフチェーン) | 低 | DAC への信頼が前提 |
| 外部 DA レイヤー使用 Rollup | 専用 DA チェーン | 中 | DA チェーンの安全性 |
EIP-4844(Proto-Danksharding / Dencun ハードフォーク 2024 年 3 月)による blob の導入後、Rollup の DA コストは大幅に低下した。これにより Validium と Rollup のコスト差が縮まり、セキュリティ優先の Rollup を選ぶ動機が増した。外部 DA レイヤーの選択肢(Celestia / EigenDA)も増えており、スペクトラムの中間部が豊かになりつつある。
採用事例:StarkEx と Immutable X
StarkEx(StarkWare)
StarkEx は StarkWare が提供する permissioned な L2 実行エンジンであり、2020 年 6 月から本番稼働している。Rollup または Validium として展開可能なアーキテクチャを持ち、2026 年時点で累計 1 兆ドル超の取引量、4 億件超のトランザクション、約 20 万人のユーザを達成している(2026 年 5 月時点)。
STARK 証明を採用しており、証明生成に量子コンピュータへの耐性を持つ暗号(ハッシュ関数ベース)を使用している点が特徴である。dYdX v3 も StarkEx を利用していた(v4 は独自チェーンへ移行)。
Immutable X
Immutable X は NFT・Web3 ゲーム特化の L2 であり、StarkEx の Validium モードをベースに構築されている。ガスフリーな NFT ミントと取引を実現し、Gods Unchained・Illuvium などのゲームが採用している。NFT のミントは高頻度・低価値の操作であるため、オフチェーン DA による Validium との親和性が高い。
2026 年時点では Immutable zkEVM(Polygon の CDK ベース)への移行が進んでおり、ZK 証明を維持しながらより汎用的な EVM 実行環境への拡張が進んでいる。
Validium・Volition の位置づけまとめ
Validium と Volition は、「ZK の有効性証明によるトランザクション正確性の保証」と「低コスト DA」を両立させたいユースケース向けの解法である。NFT ゲームのように高頻度・低価値の取引が主体で、かつ各取引の完全なオンチェーン証跡が必須でないアプリケーションでは、Rollup より有意な低コストと高スループットを得られる。
一方で DAC への信頼前提と DA リスクは本質的な制約であり、金融資産の長期保管や高価値の DeFi 取引には、フルデータオンチェーンの Rollup の方が安全性の観点で優れる。両者の特性を理解した上でアーキテクチャを選択することが、L2 設計における重要な判断軸となる。
Backlinks
No backlinks yet