Terra / LUNA の崩壊

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Created: 2026-06-04 Updated:

Terraform Labs が開発したアルゴリズム型ステーブルコイン UST と L1 ブロックチェーン Terra が 2022 年 5 月に崩壊。総額 400 億ドル超が消失し、暗号資産市場の連鎖破綻を招いた。Do Kwon は 2025 年有罪答弁。

Terra / LUNA の崩壊

Terraform Labs が開発した L1 ブロックチェーン Terra と、そのネイティブのアルゴリズム型ステーブルコイン UST は、2022 年 5 月に史上最速かつ最大規模の暗号資産崩壊の一つを経験した。法定通貨担保を持たず LUNA トークンとの裁定メカニズムのみでペグを維持する設計の致命的欠陥が、一度の売り圧力で「死のスパイラル」を引き起こし、約 400 億ドル超の時価総額がほぼゼロになった。その余波は Three Arrows Capital・Celsius・Voyager の連鎖破綻と同年 11 月の FTX 崩壊へとつながった。情報カットオフ ~2025-08、confidence: medium 固定(2026-06 時点での外部再検証は未実施)。

Terra と UST の設計:アルゴリズム型ステーブルコイン

Terra は Terraform Labs(Do Kwon・Daniel Shin 共同創業)が開発した L1 ブロックチェーンで、Cosmos SDK と Tendermint BFT コンセンサス(tech-172 と同系統)を基盤としていた。2019 年にメインネットをローンチし、韓国・東南アジアでの決済ユースケースからエコシステムを拡大した。

Terra の中核には UST(TerraUSD) と呼ばれるアルゴリズム型ステーブルコインがあった。法定通貨担保型(USDC・USDT)や過剰担保型(DAI)と異なり、UST はいかなる外部資産によっても担保されていなかった。代わりにネイティブトークン LUNA との双方向ミント/バーンメカニズムによって 1 ドルペグを維持する設計だった。

メカニズムは次のとおりだ。UST が 1 ドルを上回ると(需要過多)、ユーザーは 1 ドル相当の LUNA を燃焼して 1 UST をミントする裁定が成立し、UST の供給が増えてペグに戻る。逆に UST が 1 ドルを下回ると(供給過多)、ユーザーは 1 UST を燃焼して 1 ドル相当の LUNA をミントする裁定が成立し、UST の供給が減ってペグに戻る、という想定だった。このシステムはペグの維持を市場参加者の裁定行動に依存しており、信認の連鎖のうえに成り立っていた。

急成長:Anchor Protocol の高利回りが招いた過熱

2021 年から 2022 年にかけて Terra エコシステムは急拡大した。最大の牽引力は Anchor Protocol だった。

Anchor は Terra チームが開発した利回り型貯蓄プロトコルで、UST 預け入れに対して年率約 20% という異常に高い利回りを約束していた。当時の伝統的金融では 1% にも満たない低金利環境下、この利回りはグローバルで多数のリテール投資家を吸引した。

結果として UST の時価総額は急拡大し、2022 年 4 月時点で約 180 億ドル に達した。LUNA の価格も同年 4 月に 116 ドル超の史上最高値を記録し、時価総額ランキングでトップ 10 に入った。しかし Anchor の高利回りは持続不可能だった。プロトコルの利回り原資は LFG(Luna Foundation Guard)が補填していた準備金であり、UST の流入が続く限り赤字が拡大する構造だった。

LFG は準備金として Bitcoin を約 30 億ドル相当積み立てたが、これは UST の時価総額に対して十分な担保比率ではなく、あくまで「最終防衛ライン」の位置づけだった。

崩壊:2022 年 5 月の死のスパイラル

2022 年 5 月 7 日、UST のデペッグが始まった。引き金については複数の説があるが、Anchor Protocol への UST 預け入れの一部引き出しと大規模な UST 売却が同時に発生し、UST の価格が 1 ドルを割り込んだとされる。

ここで設計の致命的欠陥が顕在化した。UST のペグ回復のため、大量の LUNA がミントされた。しかし LUNA 価格が下落し始めると「LUNA を受け取っても損をする」という心理が裁定を機能不全にした。さらに LUNA の大量発行がその希薄化を加速させ、LUNA 価格がさらに下落するという死のスパイラルに入った。

崩壊の速度は凄まじかった。

日付事象
2022-05-07UST が 0.98 ドルに下落、デペッグ開始
2022-05-09LUNA が 60 ドル台から急落開始
2022-05-11LUNA が 1 ドルを割り込む
2022-05-13LUNA がほぼ無価値(数セント以下)

LFG は準備金の Bitcoin 約 30 億ドルを売却して UST のペグ回復を試みたが焼け石に水だった。Terra のバリデータは 2022 年 5 月 12 日にチェーンを停止し(2 回停止)、デペッグと LUNA の崩壊を食い止めることができなかった。UST と LUNA を合わせた消失額は 400 億ドル超と推計されている。

余波:暗号資産市場の連鎖破綻

Terra / LUNA の崩壊は個別プロジェクトの失敗にとどまらず、2022 年の暗号資産市場全体の弱気相場の主要な引き金となった。

最初の直撃を受けたのは Three Arrows Capital(3AC) だった。2022 年有数のヘッジファンドだった 3AC は LUNA・UST への大規模なエクスポージャーを持っており、崩壊後に数十億ドル規模の損失を抱えて 2022 年 6 月に清算手続きに入った。3AC の清算は連鎖的に波及した。3AC に資金を貸し付けていた Celsius NetworkVoyager Digital が相次いで引き出し停止・破産申請に追い込まれた。

同年 11 月の FTX 崩壊も、Terra ショック後の市場流動性の著しい低下とカウンターパーティリスクの急上昇という文脈なしには理解できない。Terra 崩壊から FTX 崩壊まで約 6 カ月の間に、暗号資産市場全体の時価総額は約 3 兆ドルから 1 兆ドル以下まで縮小した。

Terra 2.0 と Do Kwon の刑事責任

崩壊後、Terra コミュニティは旧チェーンの継続か新チェーンへの移行かを議論した。2022 年 5 月末にコミュニティ投票で新チェーンの立ち上げが承認され、Terra 2.0 が誕生した。

旧チェーン(アルゴリズム型 UST を持つ元の Terra)は Terra Classic、旧 LUNA は Luna Classic(LUNC) と改称された。新チェーン Terra 2.0 はアルゴリズム型ステーブルコインを持たない純粋な L1 ブロックチェーンとして再出発したが、コミュニティへの信頼は大きく損なわれており、エコシステムの再構築は限定的にとどまった。

Do Kwon は崩壊後に韓国当局から詐欺等の容疑で逮捕状が発行され、逃亡先のモンテネグロで 2023 年 3 月に偽造旅券所持で逮捕された。その後、米国への身柄引き渡しが進められ、Do Kwon は wire fraud(電信詐欺) 等の連邦犯罪で起訴された。2025 年 8 月に有罪答弁を行い、懲役 15 年の判決を受けた。共同創業者の Daniel Shin は韓国において別途訴追されている。

教訓:アルゴリズム型ステーブルコインの構造的脆弱性

Terra / LUNA の崩壊はアルゴリズム型ステーブルコインの本質的な脆弱性を世界に示した。

設計上の根本問題は「信認の自己循環」にある。ペグの維持が裁定参加者の信認に依存し、その信認が崩れた瞬間に担保なしでは止められない連鎖崩壊が始まる。外部担保(法定通貨・BTCなど)がない限り、「最後の貸し手」が存在しない構造だ。Anchor Protocol の約 20% 利回りはこの信認を人工的に維持するための補助金だったが、それ自体が持続不可能だった。

教訓は規制にも反映された。EU MiCA(2023 年施行)は「参照資産に裏付けられないステーブルコイン」の発行に対して厳格な要件を課し、アルゴリズム型を事実上排除する方向で設計されている。米国の GENIUS Act(2025 年)も法定通貨担保型のみを「支払い型ステーブルコイン」として認定する枠組みを採用した。

ブロックチェーン技術全体への影響も大きい。Terra は Cosmos SDK ベースの L1(tech-172 と同技術系統)として DeFi エコシステムの可能性を示したが、担保設計の誤りが一切の価値を破壊した。後続の DeFi プロジェクトはトークノミクス設計において「担保比率・清算メカニズム・利回り原資の透明性」を最重要事項として扱うようになっている。

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