DEX と AMM(分散型取引所と自動マーケットメーカー)
分散型取引所(DEX)と自動マーケットメーカー(AMM)の仕組みを体系化。定数積 x*y=k・スリッページ・LP 手数料・集中流動性(Uniswap v3)・Curve StableSwap・Balancer 重み付き・Solana DEX(Raydium/Orca)を網羅。
article technology ja 分散型取引所(DEX)と自動マーケットメーカー(AMM)の仕組みを体系化。定数積 x*y=k・スリッページ・LP 手数料・集中流動性(Uniswap v3)・Curve StableSwap・Balancer 重み付き・Solana DEX(Raydium/Orca)を網羅。DEX と AMM(分散型取引所と自動マーケットメーカー)
分散型取引所(DEX)は、中央集権型取引所(CEX)の注文マッチングサーバの代わりにスマートコントラクトが取引を処理する仕組みであり、ユーザーは秘密鍵を保持したまま資産を交換できる。主流の実装方式は**自動マーケットメーカー(AMM)**であり、注文板の代わりに流動性プールと数学的価格式を使って資産の交換レートを決定する。本記事は AMM の数理的基盤から各主要プロトコルの設計まで横断的に解説する。情報カットオフ ~2025-08、confidence: medium 固定(2026-06 時点での外部再検証は未実施)。
定数積 AMM:x*y=k の基礎
Uniswap v1/v2 が普及させた**定数積モデル(CPMM: Constant Product Market Maker)**は、2 資産の流動性プールを以下の不変式で管理する。
x * y = k
ここで x と y はプール内の 2 資産の保有量、k は定数(不変量)である。トレーダーが Δx の資産 X を投入すると、受け取れる資産 Y の量 Δy は次式で決まる。
Δy = y - k / (x + Δx)
スリッページはトレードサイズがプール規模に対して大きくなるほど不利なレートになる現象で、定数積曲線の非線形性から生まれる。取引量がプール総量の 0.3% 以下であれば影響は軽微だが、大口トレードでは数パーセントの不利が生じることがある。
**流動性提供者(LP: Liquidity Provider)はプールに両資産を預けて LP トークンを受け取り、取引手数料(Uniswap v2 は 0.3%)の比例分配を得る。ただし LP はインパーマネントロス(IL: Impermanent Loss)**というリスクを負う。これは 2 資産の価格比率が変化したとき、LP が単純保有するより資産価値が減少する現象であり、AMM の設計上避けられない性質である(詳細は tech-219 参照)。
Uniswap v3:集中流動性
2021 年にリリースされたUniswap v3は「集中流動性(Concentrated Liquidity)」を導入し、AMM の資本効率を大幅に改善した。v2 では全価格帯(0 から ∞)に流動性が分散していたのに対し、v3 では LP が自分の資金を特定の価格範囲(たとえば ETH/USDC の 1,600〜2,000 ドル)に集中させることができる。価格がその範囲内にある限り、より少ない資本で同等のスリッページ特性を実現できる。
v3 では LP トークンがポジションごとの非代替トークン(NFT)になり、それぞれの範囲・流動性量を表す。アクティブな範囲内でのみ手数料を得られるため、LP は定期的にリバランスを行うアクティブな資金管理が求められる。手数料ティアは 0.01%・0.05%・0.30%・1.00% の 4 段階が用意されており、ペアの特性に応じて選択できる。
Uniswap v4(2024 年後半リリース)では**Hooks(フック)**アーキテクチャが導入された。プール作成時にカスタムコントラクト(Hook)を指定でき、スワップ前後・流動性追加/撤去前後に任意のロジックを挿入できる。ダイナミック手数料・オンチェーン指値注文・MEV 保護・TWAMM(Time-Weighted AMM)などの機能をコアプロトコル改変なしに実装できる拡張ポイントを提供する。また「Singleton パターン」によりすべてのプールを 1 つのコントラクトに集約し、マルチホップスワップのガスコストを大幅に削減した。
Curve Finance:StableSwap と veCRV
Curve Finance は 2020 年にリリースされた、ペッグ資産(ステーブルコイン同士・ETH と stETH など)のスワップに特化した AMM である。定数積 CPMM はペッグ資産の交換に不向きで、1 USDC と 1 USDT が 1:1 に近い交換が前提なのにスリッページが大きくなる問題があった。
Curve のStableSwap 不変式は定数積(x*y=k)と定和積(x+y=const)を組み合わせたハイブリッドで、ペッグ近辺では定和積に近い挙動をとってスリッページを極小化し、ペッグから大きく外れると定数積のように流動性が保護される仕組みになっている。結果として USDC/USDT ペアで 0.01〜0.04% のスリッページで大口取引が可能となった。
veCRV(vote-escrowed CRV) は Curve の独自ガバナンス仕組みで、CRV トークンを最大 4 年ロックすることで veCRV を取得する。veCRV 保有者は週次でゲージ(各プールへの CRV 報酬配分比率)の投票権を持つ。この仕組みが「Curve Wars」を生み出し、大量の veCRV を集積した Convex Finance(tech-218 参照)と各プロトコルがゲージ票を争う流動性政治経済学を形成した。
2023 年 8 月には Curve のファウンダーウォレットから数千万ドル相当の CRV が担保清算リスクにさらされる騒動があり(Vyper コンパイラの re-entrancy バグに起因するハック)、DeFi の集中リスクとスマートコントラクト品質の問題として広く注目された。
Balancer:重み付きプール
Balancer は 2020 年にリリースされた汎用 AMM で、2 資産ではなく複数資産(最大 8 種)を任意の重みで含むプールを構成できる点が特徴だ。標準的な Uniswap v2 型プールが 50/50 の固定重みであるのに対し、Balancer は 80/20・60/40 など非対称な重み付けが可能で、インパーマネントロスを軽減しながら特定資産への露出を持ちたいユーザー(プロジェクトチームによる流動性管理など)に活用される。
BAL トークンは veBAL 仕組みを通じてゲージ投票に使われ、Curve と並ぶ「流動性誘導」の設計を持つ。ブースト機能(veBAL によるプール報酬増幅)も Curve の veCRV モデルに倣う。2022 年には Balancer v2 が登場し、1 つのボールト(Vault)コントラクトに全資産を一元管理することでガスコストを削減する設計に移行した。
Solana DEX:Raydium・Orca
Solana の高スループット(50,000 TPS 程度)と低手数料はスポット DEX に適した基盤で、独自の DEX エコシステムが形成されている。
Raydium は Solana 上の最大手 DEX で、AMM プールに加えて Serum(OpenBook)のオーダーブックと統合し、AMM の流動性とオーダーブックの指値注文を組み合わせるハイブリッド流動性モデルを取った(後に OpenBook v2 との統合へ移行)。また LaunchPad 機能(IDO プラットフォーム)を持ち、新規トークンの流動性立ち上げに広く使われている。
Orca は Solana 上のユーザーフレンドリーな AMM として知られ、Whirlpools と呼ばれる集中流動性プール(Uniswap v3 相当)を提供する。スマートルーティングによって複数プールを跨いだ最適パスを自動選択する機能も持つ。
オーダーブック型 DEX との対比
AMM の対義としてオーダーブック型 DEXが存在し、CEX と同様に指値・成行注文を管理するオーダーブックをオンチェーンまたは半オンチェーンで実現する。Ethereum L1 では ガス代とブロック時間の制約からオンチェーンオーダーブックは非現実的だったが、Solana・StarkEx(dYdX v3)・Hyperliquid 独自 L1 などでは高スループット環境を活かして実用化されている。オーダーブック型は指値注文・ポジション管理のしやすさから Perpetual DEX(tech-215 参照)に適しており、スポット AMM と Perpetual オーダーブックという棲み分けが 2025 年時点の主流構造となっている。
Backlinks
- has_parts DeFi(分散型金融)総覧
- related DEX アグリゲータ(1inch・CoWSwap・Jupiter)
- related Perpetual DEX(無期限先物分散型取引所)
- related DeFi 利回り戦略(Yearn・Convex・Pendle・veTokenomics)
- related DeFi のリスクと失敗モード