Unemployment
失業率の定義・測定から摩擦的・構造的・循環的・季節的の分類、自然失業率とNAIRU、フィリップス曲線の短期トレードオフと長期垂直化、オークンの法則、日本型雇用慣行と有効求人倍率、政策対応までを整理する。
article finance ja 失業率の定義・測定から摩擦的・構造的・循環的・季節的の分類、自然失業率とNAIRU、フィリップス曲線の短期トレードオフと長期垂直化、オークンの法則、日本型雇用慣行と有効求人倍率、政策対応までを整理する。失業 — 定義・分類・フィリップス曲線と日本の雇用制度
失業(unemployment)とは、労働の意思と能力を持ちながら職を得られない状態を指し、失業率はマクロ経済の健全性を測る最も基本的な指標の一つである。失業は個人の所得喪失にとどまらず、産出ギャップ(オークンの法則)、物価動向(フィリップス曲線)、社会的安定性に直結するため、雇用の最大化は多くの中央銀行・政府にとって物価安定と並ぶ政策目標である。本稿は、失業率の定義と測定方法、摩擦的・構造的・循環的・季節的という分類、自然失業率と NAIRU、フィリップス曲線の短期的トレードオフと長期垂直化、失業に関する主要理論の対立軸、オークンの法則、日本型雇用慣行という制度的文脈、政策対応と失業のコストを扱う。循環的失業の詳細は fin-43(景気循環)、フィリップス曲線が結ぶ物価変動の側面は fin-19(インフレーションとデフレーション)が扱う。
失業率の定義と測定
失業率は、労働力人口(labor force)に占める失業者の割合として定義される。労働力人口とは、生産年齢人口のうち就業者と失業者を合わせた人数であり、求職活動を行っていない非労働力人口(学生、家事専従者、求職を諦めた者など)は分母から除外される。すなわち失業率 = 失業者数 ÷ 労働力人口 × 100 という式で表される。
ILO(国際労働機関)の標準的な定義では、失業者とは (1) 調査期間中に仕事をしておらず、(2) 実際に求職活動を行っており、(3) 仕事があればすぐに就業可能な者、という三条件を満たす者を指す。この定義は各国の労働力調査の基礎となっているが、求職活動の具体的な認定基準や調査期間の取り方には国ごとに細かな運用差がある。
日本では総務省統計局が毎月実施する「労働力調査」に基づき完全失業率が算出・公表される。米国では労働省労働統計局(BLS)が実施する Current Population Survey(CPS)が失業率算出の基礎となる。両調査とも世帯対象の標本調査だが、サンプルサイズ・調査票設計・季節調整の手法には相違があり、両国の水準を単純に横並びで比較する際は注意が必要である(標本設計上の相違点や最新の調査方法の詳細は要確認)。また失業率は非労働力人口の算入・除外次第で上下しうる指標であり、求職を諦めた就業意欲喪失者が増えると、実質的な労働市場の悪化にもかかわらず失業率が見かけ上低下することがある。
失業の分類
失業はその発生原因によって複数のタイプに分類される。この分類は、同じ失業率の数字でも背後にあるメカニズムが異なり、有効な政策対応も異なることを理解するうえで重要である。
| 分類 | 説明 |
|---|---|
| 摩擦的失業(frictional unemployment) | 労働者が離職後に新しい職を探す過程で生じる、探索・マッチングに要する時間に起因する失業。労働市場が効率的に機能していてもゼロにはならない |
| 構造的失業(structural unemployment) | 求職者の持つスキルと求人が要求するスキルの不一致、あるいは求職者の所在地と求人の所在地の地理的な不一致から生じる失業 |
| 循環的失業(cyclical unemployment) | 景気後退期の総需要不足に起因する失業。景気循環と連動して増減する(fin-43 景気循環を参照) |
| 季節的失業(seasonal unemployment) | 農業・観光業など、季節によって労働需要が規則的に変動する産業で生じる失業。通常、公表される失業率は季節調整済みの系列が用いられる |
摩擦的失業と構造的失業は、景気が完全に回復してもゼロにならない「自然な」失業として扱われることが多く、次節の自然失業率の議論の土台となる。
自然失業率と NAIRU
自然失業率(natural rate of unemployment)を体系的に導入したのは、ミルトン・フリードマン(Milton Friedman)が1968年にアメリカ経済学会(AEA)会長講演として発表した論文「The Role of Monetary Policy」である。同時期にエドマンド・フェルプス(Edmund Phelps)も並行して同様の考え方を展開しており、両者の業績は自然失業率仮説(natural rate hypothesis)ないし期待修正フィリップス曲線(expectations-augmented Phillips curve)の理論的基礎となった。主張の核心は、失業率にはインフレ率の変化に依存しない「自然な」水準が存在し、政府・中央銀行が総需要拡大策でこの水準より低い失業率を維持しようとしても、期待インフレ率の調整を通じて長期的には不可能だという点にある。
自然失業率は直接観測できない理論的水準であるため、実務上はこれを近似した NAIRU(non-accelerating inflation rate of unemployment、インフレ非加速的失業率)が用いられる。NAIRU はインフレ率を加速も減速もさせない失業率の水準として定義され、中央銀行の政策運営やマクロモデルで自然失業率の実務的な代理指標として扱われる。ただし NAIRU の点推定値は時代や推計手法によって変動し一意に確定しない(主要国の具体的な現行推計値は要確認)。
フィリップス曲線
フィリップス曲線の出発点は、ニュージーランド出身の経済学者 A. W. フィリップス(A. W. Phillips)が1958年に発表した実証論文であり、英国の1861〜1957年の名目賃金上昇率と失業率のデータから両者に安定した負の相関があることを示した。この発見は当初、失業率を高めればインフレを抑制でき逆に下げればインフレが加速するという、政策当局が選択可能な短期的トレードオフとして解釈された。
しかし前節のフリードマン=フェルプスの批判は、このトレードオフが長期的には維持できないことを示した。期待修正フィリップス曲線の枠組みでは、短期的にはトレードオフが存在しうるが、経済主体が実際のインフレ率に応じて期待インフレ率を調整していくため長期的には消失し、フィリップス曲線は自然失業率(ないし NAIRU)の水準で垂直になる。すなわち総需要拡大策で自然失業率より低い失業率を維持しようとすれば、期待インフレ率が追いつくまでインフレが加速し続けるだけで、失業率の恒久的な低下にはつながらない。
この長期垂直化という予測は、1970年代の先進国で観察されたスタグフレーション——高失業率と高インフレ率の同時進行——によって実証的に裏づけられたと広く理解されている。1958年当初想定されたような失業とインフレの単純な反比例トレードオフは、この時期に事実上崩壊した。
なお近年の実証研究では、フィリップス曲線の傾き——失業率の変化がインフレ率に与える影響の大きさ——が過去数十年で「平坦化(flattening)」してきたのではという議論が続いている。原因や具体的な最新の実証結果は学界でも見解が分かれており、特定の論文や数値を挙げて断定することは避け要確認の論点として扱う。
主要理論の対立軸
失業の原因とその含意をめぐっては、複数の理論的立場が並存してきた。
| 立場 | 中心的な説明 | 代表的論者・概念 |
|---|---|---|
| 古典派・新古典派的見方 | 失業の多くは賃金の下方硬直性や労働市場の摩擦から生じる実質的に自発的なものであり、賃金が伸縮的なら市場は均衡する | 伝統的な労働市場均衡モデル |
| ケインズ派の見方 | 総需要不足と名目賃金・価格の粘着性(sticky wages/prices)により労働市場は自動的には均衡せず、非自発的失業(involuntary unemployment)が生じうる | ケインズ |
| サーチ・マッチング理論 | 労働市場を求職者と求人企業の探索・マッチング過程としてモデル化し、摩擦的・構造的失業の発生メカニズムを定式化する | ダイアモンド、モーテンセン、ピサリデス(Diamond–Mortensen–Pissarides モデル)。3氏は2010年のノーベル経済学賞を「サーチ理論に基づく市場の分析」で受賞 |
| 効率賃金理論 | 企業が市場清算水準より高い賃金を払い労働者の怠業(shirking)を防ぎ生産性を確保するため、賃金が下方硬直的になり非自発的失業が均衡として持続しうる | シャピロ=スティグリッツの怠業モデル(1984年) |
| インサイダー・アウトサイダー理論 | 既雇用の労働者(インサイダー)が賃金交渉力を持ち失業者(アウトサイダー)を犠牲に高賃金を維持するため、失業が持続する | リンドベック、スノワー |
| ヒステリシス(履歴効果) | 一時的な景気後退による失業がスキル劣化や労働市場からの離脱を通じ自然失業率自体を押し上げ、循環的失業が構造的失業へ転化する | ブランシャール、サマーズ(“Hysteresis and the European Unemployment Problem,” 1986年) |
これらの立場は互いに排他的でなく、現実の失業は複数のメカニズムが重なり合って生じると理解するのが妥当である。特にヒステリシスの概念は、次節のオークンの法則や後述の日本の雇用制度の議論とも密接に関わる。
オークンの法則
オークンの法則(Okun’s Law)は、アーサー・オークン(Arthur Okun)が1962年に発表した実証的な経験則であり、失業率のギャップ(実際の失業率と自然失業率の乖離)と産出ギャップ(実際の GDP と潜在 GDP の乖離)の間に、おおむね安定した比例関係があることを示した。典型的な定式化では、失業率が自然失業率を1パーセントポイント上回ると、実質 GDP は潜在 GDP をある比率だけ下回るという関係で表される。
ただしこの比率は物理法則のような固定定数ではなく、国や時代によって推計値が異なる経験則にすぎない(具体的な現在の推計値は文献や対象期間により幅があるため要確認)。オークンの法則は、失業の増加が単なる労働市場の問題にとどまらず経済全体の産出の逸失(次節「失業のコスト」参照)を意味することを定量的に示す枠組みとして重要である。
日本の制度的文脈
日本の労働市場は、終身雇用・年功序列・企業内労働組合を柱とする「日本型雇用慣行」と、それに基づく内部労働市場(internal labor market)によって特徴づけられてきた。この制度のもとでは企業は景気後退局面でも正社員を解雇せず、企業内に労働者を抱え込んだまま調整を図る「労働保蔵(labor hoarding)」的な行動をとる傾向が強い。一時休業(操業停止・休業手当の支給)や出向(関連会社への一時的な配置転換)が、解雇に代わる雇用調整の緩衝材として機能してきた。
この内部労働市場による雇用安定化と表裏一体なのが非正規雇用(パート・アルバイト・契約社員・派遣社員など)である。マクロ的には、非正規雇用は正社員の雇用保障を維持したまま企業が労働需要変動に対応する調整弁として機能してきた側面があり、景気後退期には非正規雇用者の雇止め・契約非更新が先行して生じやすい。
失業率に加え、日本の労働市場では厚生労働省の職業安定業務統計に基づく有効求人倍率(求人数を求職者数で割った指標)が、失業率を補完する労働需給指標として重視される。有効求人倍率は1を上回れば求人超過、下回れば求職超過を意味し、失業率より先行して動く傾向があるとされる。
これらの制度的特徴を背景に、日本の失業率は歴史的に米国やユーロ圏より構造的に低い水準で推移し、景気変動への感応度(ボラティリティ)も相対的に小さいと評価されることが多い(各国・各時期の具体的な比較数値は調査方法の違いも絡むため要確認)。
政策対応
失業対策は大きく能動的労働市場政策(active labor market policy)と受動的所得保障に分けられる。能動的労働市場政策は、職業訓練・求職者と求人企業のマッチング支援・再就職支援など、失業者の就業可能性を高める施策群であり、主に構造的失業やミスマッチに対応する。前節のヒステリシスの議論とも関わり、早期の再就業支援は失業長期化によるスキル劣化やヒステリシス発生を防ぐ効果を持つと考えられる。
受動的所得保障の中心は雇用保険(失業給付)であり、失業中の生活を支えるとともに、性急な再就職によるミスマッチを避け求職の質を保つ機能も持つとされる。
循環的失業には総需要側からの対応が中心となる。金融政策による政策金利の調整や財政政策による総需要創出は、景気後退に起因する循環的失業を緩和する手段として位置づけられる(本 KB の伝統的金融政策・非伝統的金融政策の各記事を参照)。構造的失業には、職業訓練・マッチング支援に加え、労働市場の柔軟性を高める規制改革や産業構造転換に対応した人的資本投資といった長期的な構造改革が求められる。
失業のコスト
失業のコストは経済的側面と社会的・個人的側面の両方にわたる。経済的コストは、オークンの法則が示す通り失業率上昇が実質 GDP の潜在水準からの乖離(産出ギャップ)として定量的に把握できる——失業は失業者個人の所得喪失にとどまらず、経済全体で生産されえたはずの財・サービスの逸失を意味する。
社会的・個人的コストとしては、失業期間長期化に伴うスキルの劣化、長期的な稼得能力への傷跡効果(scarring effects)——一度失業を経験した労働者は再就職後も賃金水準が長期にわたり低く抑えられる傾向があるとされる現象——が挙げられる。さらに前述のヒステリシスの通り、個人レベルのスキル劣化・労働市場からの離脱が集積すると循環的失業が構造的失業へ転化し、自然失業率そのものを押し上げうる。この意味で失業のコストは、経済の潜在的な供給能力を長期にわたり毀損しうる点に留意が必要である。
関連
- 景気循環(fin-43): 循環的失業は景気循環の後退局面における総需要不足から生じ、景気の拡張・後退という局面区分そのものが循環的失業の増減と直結する。景気循環の局面分類・周期・理論の詳細は同記事を参照。
- インフレーションとデフレーション(fin-19): フィリップス曲線は失業率とインフレ率を結びつける枠組みであり、インフレ・デフレの測定やディマンドプル/コストプッシュという原因論の詳細は同記事を参照。
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