Business Cycle
景気循環の定義・局面(拡張・山・後退・谷)・周期長による分類(キチン・ジュグラー・クズネッツ・コンドラチェフ)・先行/一致/遅行指数・主要理論(RBC・ケインズ・マネタリスト・オーストリア学派・ミンスキー)・日本の景気動向指数と景気基準日付・NBER との国際比較を整理する。
article finance ja 景気循環の定義・局面(拡張・山・後退・谷)・周期長による分類(キチン・ジュグラー・クズネッツ・コンドラチェフ)・先行/一致/遅行指数・主要理論(RBC・ケインズ・マネタリスト・オーストリア学派・ミンスキー)・日本の景気動向指数と景気基準日付・NBER との国際比較を整理する。景気循環 — 局面・周期分類・理論・日本の景気動向指数と国際比較
景気循環(business cycle)とは、GDP・雇用・所得・取引といった経済活動全体が長期的な成長トレンドの周りで示す、拡張と後退の反復的だが非周期的な変動を指す。厳密に一定周期で繰り返す機械的な波ではなく、拡張・山・後退・谷という局面の反復パターンとして捉える点が要点である。本稿は局面の定義、周期の長さによる分類(キチン・ジュグラー・クズネッツ・コンドラチェフ)、先行・一致・遅行指数という実務上の枠組み、主要な理論的説明(RBC・ケインズ・マネタリスト・オーストリア学派・ミンスキー)、日本の景気動向指数・景気基準日付の制度、および米国 NBER との国際比較を扱う。金融政策・GDP・インフレ/デフレなど関連トピックの詳細は既存記事に譲り、本稿はそれらを束ねるハブ記事として構成する。
定義とスコープ
景気循環は、産出・雇用・所得・取引など多数の経済活動でほぼ同時に生じる拡張が、同様に広範な後退・収縮・回復へと続き、それが次の循環の拡張局面へ合流していく変動として定義される(バーンズ=ミッチェルによる古典的定義に由来する整理)。持続期間は1年強から10〜12年程度までさまざまで、固定周期の波ではなく「局面の反復」という定性的パターンを指す点が天文学的・機械的な周期現象との違いである。
景気循環を理解するうえで区別すべき対概念が二つある。第一に、長期的な成長トレンド(潜在 GDP の趨勢的拡大)との区別であり、景気循環とはこのトレンドからの乖離・変動を指すのであって、トレンドそのものではない。第二に、季節変動との区別であり、景気循環の分析では通常、季節調整済みの系列を用いる。
局面(拡張・山・後退・谷)
標準的な景気循環は4つの局面で整理される。
| 局面 | 説明 |
|---|---|
| 拡張局面(回復・拡大) | 産出・雇用が増加する局面 |
| 山(やま) | 転換点。活動水準が下降に転じる直前の最高点 |
| 後退局面(景気後退) | 産出が減少する局面 |
| 谷(たに) | 転換点。回復に転じる直前の最低点 |
「山」「谷」という用語は、日本の内閣府が景気基準日付の転換点を示す際に用いる公式な呼称であり、後述の景気動向指数の枠組みでもそのまま使われる基本語彙である。教科書によっては拡張と回復を区別したり、拡張→山→後退→谷→回復→次の拡張という連続的な弧として描くこともあるが、いずれも上記4局面モデルの延長として理解できる。
周期の長さによる分類
景気循環は持続期間によって複数の名称で分類される。
| 名称 | 典型的な周期 | 主な想定メカニズム | 日本語慣用表記 |
|---|---|---|---|
| キチンサイクル | 約3〜5年(約40か月) | 在庫(ストック)調整 | 短期循環・在庫循環 |
| ジュグラーサイクル | 約7〜11年 | 設備投資・資本支出 | 中期循環・設備投資循環 |
| クズネッツサイクル | 約15〜25年 | 建築投資・人口動態の波 | 建築循環・クズネッツの波 |
| コンドラチェフの波 | 約45〜60年 | 技術革新の長期波動 | 長期波動 |
これらの周期区分と要因の対応関係は経済学の教科書で広く共有されているが、区切りの年数は文献によって幅があるため目安として理解するのがよい(例えばジュグラーサイクルを7〜11年とする文献もあれば8〜10年とする文献もある)(具体的な年数区分は文献により幅があるため要確認)。実務上、日本の景気動向指数が捕捉する「景気循環」は、在庫循環・設備投資循環に相当するジュグラー規模の周期を指すことがほとんどであり、クズネッツやコンドラチェフの波はより構造的・歴史的な議論にとどまり、公式統計で直接運用されることは少ない。
先行・一致・遅行指数
景気の転換点を実務的に把握するための枠組みとして、構成指標を転換のタイミングで3種類に分類する考え方がある。
- 先行指数: 景気の転換に先立って動く指標。新規受注、建築着工、株価、在庫率、企業マインド調査などが該当する。
- 一致指数: 景気の動きとほぼ同時に動く指標。鉱工業生産、雇用、実質販売額、所得などが該当する。
- 遅行指数: 景気の転換より遅れて動く指標。失業期間、単位労働コスト、完成品在庫、貸出金利などが該当する。
この先行・一致・遅行の三分類は、次節で扱う日本の景気動向指数がまさにこの枠組みで構成系列を組織している点で、制度と理論を直接つなぐ橋渡しとなる。各分類に含まれる具体的な系列は改定されることがあるため、最新の構成は所管機関の公表資料で確認する必要がある(具体的な最新構成系列は要確認)。
主要理論
景気循環の原因については、学派ごとに異なる説明が与えられてきた。
| 学派 | 中心的な因果説明 | 代表的論者 |
|---|---|---|
| リアル・ビジネス・サイクル(RBC)理論 | 技術・生産性ショックという実物(供給側)の変動が、最適化する経済主体の異時点間の労働・余暇や消費・貯蓄選択を通じて波及する。貨幣はおおむね中立的で原因とはみなされない | キッドランド、プレスコット、ロング=プロッサー(新しい古典派の系譜) |
| ケインズ派の需要側説明 | アニマルスピリットや期待に起因する投資の変動、乗数・加速度メカニズム、価格・賃金の粘着性による市場調整の遅れが循環を生む | ケインズ。乗数・加速度モデルの定式化はサミュエルソン、ヒックス |
| マネタリスト | 貨幣供給の伸び率と貨幣需要のかい離が循環の主因であり、中央銀行による過剰・不規則な金融拡張・収縮がブーム・バストを引き起こす | フリードマン、シュワルツ(『米国金融史』) |
| オーストリア学派(オーストリア景気循環理論) | 中央銀行主導の信用膨張による人為的な低金利が異時点間の資本配分を歪め、ブーム期に長期・資本集約的プロジェクトへの誤投資(マルインベストメント)が蓄積し、その後の不況で清算される | ミーゼス、ハイエク |
| 金融加速度・ミンスキー的(金融不安定性)見解 | バランスシート効果がショックを増幅する内生的な信用循環(金融加速度:バーナンキ=ガートラー=ギルクリスト)と、安定そのものがリスクテイクの拡大(ヘッジ→投機的→ポンジ金融)を生み「ミンスキー・モーメント」の崩壊に至るとする金融不安定性仮説 | ミンスキー。金融加速度の定式化はバーナンキ、ガートラー、ギルクリスト |
各学派が想定する原因の違いは、そのまま金融政策への処方箋の違いにも直結する(本 KB の伝統的金融政策・非伝統的金融政策の各記事を参照)。
日本の制度 — 景気動向指数と景気基準日付
日本では内閣府(経済社会総合研究所、ESRI)が毎月「景気動向指数」を公表する。景気動向指数には二つの算出形式がある。
- CI(コンポジット・インデックス): 景気変動の大きさ・テンポを測る指標で、拡張・後退の勢いを把握するのに用いる。近年の運用では CI が公表上の中心的指標に位置づけられている(具体的な運用開始時期は要確認)。
- DI(ディフュージョン・インデックス): 構成指標のうち上昇している系列の割合(広がり)を測る指標で、景気の方向・転換点の判断に用いる。DI が50%を上回れば拡張局面、下回れば後退局面と読むのが慣例である。
CI・DI いずれも構成系列は前節と同じ先行指数・一致指数・遅行指数の3グループに分けられる。
景気の山・谷を確定する「景気基準日付」は、内閣府が設置する景気動向指数研究会(有識者による検討会)の審議を経て、一致指数などのデータをもとに提案された基準日を内閣府が採用する形で決定される(研究会の現行名称・開催頻度・直近で確定した山・谷の時期および何番目の循環かは要確認)。歴史的に日本の景気循環は「第◯循環」として通し番号で管理されてきたが、谷→山→谷と山→谷→山のどちらを1循環とするかという数え方の慣行は資料により表記が異なるため要確認である。
なお日本の景気基準日付は、公表時点では「暫定」とされ、その後のデータ改定を経て「確定」に至る二段階のプロセスを取る。確定後もこれは統計的な単一の定量基準(例えば実質 GDP の2四半期連続マイナス成長という通俗的な目安)によって機械的に決まるものではなく、研究会の総合判断に基づく点に留意が必要である。
国際比較 — NBER と日本
米国では、NBER(全米経済研究所)に設置された「ビジネス・サイクル・デーティング委員会」という学識経験者の委員会が景気の山・谷を判定する。NBER は政府機関ではなく民間の非営利研究機関であるが、その判定は法的な位置づけを欠きながらも米国の政府・学界・報道で事実上の標準として扱われている。判定に用いる主な系列は、実質個人所得(移転収入を除く)、非農業部門雇用者数、実質個人消費支出、卸売・小売売上高(物価調整済み)、鉱工業生産、家計雇用調査など複数の月次指標であり、単一の GDP 基準による機械的なルールではない(NBER 自身も実質 GDP の2四半期連続マイナス成長という通俗的な目安を公式の判定基準として明示的に採用していないとされる)。
これに対し日本は、内閣府という政府機関が景気動向指数研究会の審議を経て景気基準日付を公式統計として決定する点で、民間機関である NBER と対照的である。判定のタイミングについては両国とも、データ改定が落ち着くのを待つため実際の転換点からかなり遅れて発表される点で共通する。もう一つの違いとして、日本は毎月の定量的な指数(景気動向指数 CI/DI)と遡及的な山・谷の基準日付を一体の制度として運用しているのに対し、米国では NBER の日付判定と(政府機関ではなく民間のコンファレンス・ボードが公表する)景気先行指数は別々の主体が担っている。
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- 伝統的金融政策 / 非伝統的金融政策(fin-42): 金融政策は景気循環への対応であると同時に、マネタリスト・オーストリア学派の見解では循環の原因ともみなされる。政策金利操作・量的緩和・マイナス金利・YCC など具体的な政策手段の詳細を扱う。
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