所得税 — 所得区分・超過累進税率と源泉徴収・確定申告の仕組み
日本の所得税を所得税法の位置づけから解説し、10種類の所得区分、総所得金額から所得控除・課税所得・超過累進税率・税額控除に至る計算構造、源泉徴収・年末調整と確定申告の使い分け、1億円の壁など垂直的公平性をめぐる論点までを概観する。
article finance ja 日本の所得税を所得税法の位置づけから解説し、10種類の所得区分、総所得金額から所得控除・課税所得・超過累進税率・税額控除に至る計算構造、源泉徴収・年末調整と確定申告の使い分け、1億円の壁など垂直的公平性をめぐる論点までを概観する。所得税 — 所得区分・超過累進税率と源泉徴収・確定申告の仕組み
所得税(individual income tax)は、個人が一暦年間に得た所得に対して課される日本の国税・直接税であり、所得税法を根拠法として超過累進税率を通じた垂直的公平性の実現と財政収入の確保、そして所得再分配機能を担う。所得はその性質に応じて10種類に区分され、各区分ごとに定められた計算方法で所得金額を算出したうえで合算し、そこから各種所得控除を差し引いた課税所得に対して5%から45%(国税部分)の超過累進税率を適用する。給与所得者の大半は源泉徴収と年末調整によって納税が完結する一方、事業所得者や一定の副収入がある者は確定申告によって自ら税額を確定させる。
法的根拠と税の性格
所得税法(昭和40年法律第33号)を根拠法とする所得税は、消費税とは異なり、税を国に納める義務を負う者と経済的に税を負担する者が一致する直接税に分類される。課税単位は世帯ではなく個人であり(個人単位課税)、居住者は原則として国内外を問わない全世界所得に対して課税され、非居住者は国内源泉所得についてのみ課税される。所得税は法人税・消費税と並ぶ国の基幹税であり、国税収入に占める割合は年度により変動するものの、消費税・法人税と並んで一貫して大きな比重を占めてきた。所得税は暦年(1月1日から12月31日まで)を課税期間の単位とし、この一年間に生じた所得を合算して税額を計算する暦年課税を採用している点も基本的な制度設計として押さえておくべき点である。
所得の10種類区分
所得税法は、所得をその発生源泉や性質に応じて10種類に区分し、区分ごとに収入金額から必要経費等を差し引く計算方法を定めている。利子所得(預貯金の利子等)、配当所得(株式の配当等)、不動産所得(家賃収入等)、事業所得(自営業・フリーランスの事業から生じる所得)、給与所得(勤務先から受ける給与・賞与)、退職所得(退職金等、長期勤続への配慮から他の所得と分離して比較的軽い課税がなされる分離課税)、山林所得(山林の伐採・譲渡による所得)、譲渡所得(土地・建物・有価証券等の資産譲渡による所得で、保有期間により長期・短期に区分され取扱いが異なる)、一時所得(懸賞金・生命保険の一時金等、労務や資産譲渡の対価でない一時的な所得)、雑所得(公的年金等や副業に係る所得など、他のいずれにも該当しない所得の受け皿区分)の10区分である。このうち利子所得・退職所得・山林所得・譲渡所得の一部は他の所得と合算せず分離して税額を計算する分離課税とされ、それ以外の所得は原則として合算して超過累進税率を適用する総合課税の対象となる。この総合課税と分離課税の区分は、所得の種類によって実効的な税負担が大きく異なる制度上の分岐点であり、たとえば給与所得は総合課税、上場株式の譲渡益・配当(申告分離課税を選択した場合)は原則20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税の合計)の分離課税というように、所得の性質によって税率構造そのものが異なる。
課税所得の計算構造
所得税額の計算は、まず10種類の所得区分ごとに所得金額を算出し、総合課税の対象となるものを合算して総所得金額を求める段階から始まる。次に、総所得金額から基礎控除・扶養控除・社会保険料控除・医療費控除・生命保険料控除といった所得控除を差し引き、課税所得金額を算出する。この課税所得金額に超過累進税率を適用して算出税額を求め、そこから住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)や配当控除といった税額控除を差し引くことで、最終的な納付税額が確定する。「総所得金額 → 所得控除 → 課税所得金額 → 税率適用 → 税額控除」という一連の流れは、所得控除が課税所得そのものを圧縮する(税率を掛ける前の金額を減らす)のに対し、税額控除は算出された税額そのものから直接差し引かれるという性質の違いを持つ点が重要である。同じ金額の控除でも、所得控除は適用者の限界税率が高いほど節税効果が大きくなる(高所得者ほど恩恵が大きい)のに対し、税額控除は限界税率にかかわらず控除額そのものが一律に効くという構造的な違いがあり、この違いは後述する経済学的論点とも関わる。
超過累進税率
所得税の国税部分は、課税所得金額が高くなるほど段階的に高い税率が適用される超過累進税率(progressive tax)を採用しており、税率区分は5%・10%・20%・23%・33%・40%・45%の7段階、最高税率は45%である(住民税は原則一律10%が別途課され、両者を合わせた実効的な最高税率はさらに高くなる)。超過累進税率の核心は、ある税率区分に達したからといって所得全体にその税率が適用されるのではなく、各区分の金額にのみその区分の税率が適用され、これを合算して税額を算出するという計算方法にある。したがって課税所得が高税率区分に入った人でも、その区分に入る前の所得部分には低い税率しか適用されず、平均税率(実効税率)は常に適用される最高の限界税率よりも低くなる。この累進構造は、所得の多い者ほど負担能力(担税力)が大きいという考え方に基づく垂直的公平性の実現を目的としており、消費税のような逆進的な税とは対照的な所得再分配機能を担う。なお、具体的な税率区分の金額境界や税率自体は税制改正の対象になりうるため、正確な最新の数値は国税庁の公表資料で確認する必要がある。
主要な所得控除
所得控除は納税者の個人的事情——扶養家族の有無、医療費の負担、社会保険料の支払い等——を課税所得の計算に反映させる仕組みであり、代表的なものとして次が挙げられる。基礎控除はすべての納税者に一律に認められる控除で、合計所得金額に応じて控除額が逓減・消失する仕組みが導入されている。給与所得控除は給与所得者の必要経費相当額をみなしで控除するもので、収入金額に応じて控除額が定められ、高収入層では控除額に上限が設けられている。扶養控除は生計を一にする親族を扶養している場合に適用され、扶養親族の年齢区分(一般・特定・老人等)によって控除額が異なる。社会保険料控除は健康保険料・厚生年金保険料・国民年金保険料等の支払額の全額を控除する仕組みであり、支払額に上限がない点が他の控除と異なる。医療費控除は年間の医療費が一定額を超えた場合に適用され、生命保険料控除は生命保険・介護医療保険・個人年金保険の保険料に応じて一定額を控除する。このほか配偶者控除・配偶者特別控除、小規模企業共済等掛金控除(iDeCo の掛金等)、寄附金控除(ふるさと納税等)なども重要な控除項目である。これらの控除は毎年度の税制改正で見直されることがあり、控除額・所得制限・適用要件の具体的な数値は国税庁の最新の公表資料で確認すべきである。
源泉徴収・年末調整と確定申告
給与所得者の大半は、毎月の給与から所得税が概算で天引きされる源泉徴収と、年末に一年間の実際の所得・控除に基づいて過不足を精算する年末調整によって納税手続が完結し、原則として自ら確定申告を行う必要がない。これは雇用主が源泉徴収義務者として徴収・納付・年末調整の事務を担うことで、大多数の給与所得者にとって申告事務を大幅に簡素化する仕組みであり、日本の所得税実務における大きな特徴である。一方、事業所得者・不動産所得者、給与収入が一定額を超える者、給与以外に一定額を超える所得がある者、医療費控除やふるさと納税(ワンストップ特例を利用しない場合)等の適用を年末調整で受けられない控除を受けようとする者などは、翌年2月中旬から3月中旬頃(曜日等により変動)を申告期間として、自ら確定申告を行い税額を確定させる必要がある。源泉徴収・年末調整で完結する給与所得者と、自ら確定申告を行う事業所得者等との間には、所得の捕捉のしやすさ(給与所得はほぼ完全に捕捉されるのに対し事業所得は自己申告に依存する部分が大きい)という執行上の非対称性が存在し、これはクロヨン(9・6・4)問題として言及されてきた所得捕捉率の業種間格差の議論とも関連する。
経済学的・政策的論点
所得税の超過累進構造は、応能負担原則に基づく垂直的公平性と所得再分配機能を体現する一方、複数の論点を伴う。第一に、給与所得控除や各種所得控除は、控除額が定額または上限付きで設計されている場合、低所得層に対して相対的に大きな割合の恩恵をもたらす一方、所得控除方式そのものは高い限界税率に直面する高所得層ほど同じ控除額からの節税効果(税負担軽減額)が大きくなるという逆進的な性質を内包しており、税額控除方式への転換を求める議論の根拠となっている。第二に、いわゆる「1億円の壁」問題がある。給与所得等の総合課税所得には最高45%の累進税率が適用される一方、上場株式の譲渡益・配当等の金融所得は前述のとおり申告分離課税で概ね20.315%という一律の税率にとどまるため、所得の大部分を金融所得が占める超高所得層では、所得税全体に占める実効負担率が所得1億円前後をピークに、それ以上の所得階層ではむしろ低下していくという逆転現象が観察されており、垂直的公平性の理念と整合しない構造上の帰結として指摘されてきた。この問題への対応として、極めて高い所得水準を対象に金融所得を含めた追加的な最低負担を求める措置が導入されているが、対象となる所得水準や負担率の具体的な制度設計は税制改正の対象になりうるため、最新の制度内容は国税庁・財務省の公表資料で確認する必要がある。第三に、給与所得者と事業所得者の間の所得捕捉率の格差(前述のクロヨン問題)は、同じ所得水準でも実質的な税負担に差を生じさせうるという執行上の公平性の課題として、インボイス制度の導入等とも関連づけて議論され続けている。所得税制度の設計は、垂直的公平性・水平的公平性・簡素性・執行可能性という複数の目標の間のトレードオフを常に含んでおり、これらの論点は税制改正のたびに繰り返し取り上げられるテーマである。とりわけ税率区分の金額境界、各種所得控除の控除額・所得制限、確定申告期限の具体的な日付は税制改正のたびに見直される数値であり、正確な最新の内容は国税庁の公表資料で必ず確認されたい。
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