金融市場インフラ(FMI)— PFMI 24原則と決済・清算システムの制度設計

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Created: 2026-07-01 Updated:

CPMI-IOSCO の PFMI が定義する PS・CSD・SSS・CCP・TR の5類型を軸に金融市場インフラ(FMI)を整理し、 日銀ネットや JASDEC 等の実例、システミックリスクの中心性、日本の監督体制、決済サイクル短縮等の動向を概観する。

金融市場インフラ(FMI)— PFMI 24原則と決済・清算システムの制度設計

金融市場インフラ(FMI: Financial Market Infrastructure)とは、参加者間の資金・証券の決済やデリバティブ取引情報の集中管理を担う制度的基盤であり、CPMI-IOSCO の「金融市場インフラのための原則」(PFMI、2012年)が国際的な設計標準を与えている。PFMI は FMI を資金決済システム(PS)・証券集中振替決済機関(CSD)・証券決済システム(SSS)・清算機関(CCP)・取引情報蓄積機関(TR)の5類型に分類し、法的基盤からガバナンス、信用・流動性リスク管理、決済の完了性、参加者破綻時の処理、透明性まで24の原則を定める。FMI は多数の参加者の取引を集中的に処理するがゆえに、金融システム全体の安定性を支える中枢である一方、単一の機能停止が伝播する「too interconnected to fail」のリスク源にもなる。日本では日本銀行と金融庁が監視・監督を分担し、日銀ネットや全銀システム、JASDEC、JSCC といった具体的な FMI がその制度設計を体現している。

定義と5類型(CPMI-IOSCO PFMI)

PFMI は BIS 傘下の CPMI(Committee on Payments and Market Infrastructures、旧 CPSS)と IOSCO(証券監督者国際機構)が共同で策定した国際基準であり、2012年4月に公表された。FMI は参加者間の支払い・証券・デリバティブ取引を記録・清算・決済する多者間システムと定義され、以下の5類型に整理される。

  1. PS(Payment System、資金決済システム)— 参加者間の資金移動を実行するシステム。例: Fedwire、TARGET2、全銀システム、日銀ネット(BOJ-NET)。
  2. CSD(Central Securities Depository、証券集中振替決済機関)— 証券の保管・振替を集中的に行う機関。例: JASDEC(証券保管振替機構)、DTC(米)。
  3. SSS(Securities Settlement System、証券決済システム)— 証券の引渡しと(多くの場合)資金決済を連動させる仕組み(DVP: Delivery versus Payment)。CSD が運営することが多い。
  4. CCP(Central Counterparty、清算機関)— 売り手に対する買い手・買い手に対する売り手として介在し(ノベーション)、決済リスクを集中管理する。例: JSCC(日本証券クリアリング機構)、LCH、DTCC 傘下の FICC・NSCC。
  5. TR(Trade Repository、取引情報蓄積機関)— デリバティブ取引等の情報を集中的に記録・保持し、当局への透明性を提供する。2009年 G20 ピッツバーグ・サミット合意(店頭デリバティブ規制改革)を受けて重要性が増した類型である。

これら5類型は排他的ではなく、実務上は同一機関が複数の機能を兼ねることが多い(例: JASDEC は CSD と SSS を、DTCC は CSD・CCP を傘下に持つ)。

PFMI 24原則の全体構成

PFMI は24の原則から成り、以下のカテゴリに整理される。

  • 総則・ガバナンス: 原則1(法的基盤)、原則2(ガバナンス)、原則3(包括的リスク管理の枠組み)。
  • 信用・流動性リスク管理: 原則4(信用リスク)、原則5(担保)、原則6(証拠金)、原則7(流動性リスク)。
  • 決済: 原則8(決済の完了性)、原則9(資金決済)、原則10(現物決済)。
  • CSD・エクスチェンジ・オブ・バリュー決済システム: 原則11(CSD)、原則12(エクスチェンジ・オブ・バリュー決済システム)。
  • デフォルト管理: 原則13(参加者破綻時の規則・手続)、原則14(顧客資産の分別管理・移転可能性)。
  • 一般業務・オペレーショナルリスク: 原則15(一般事業リスク)、原則16(保管・投資リスク)、原則17(オペレーショナルリスク)。
  • アクセス: 原則18(アクセス・参加要件)、原則19(階層構造の参加)、原則20(他の FMI とのリンク)。
  • 効率性: 原則21(効率性・実効性)、原則22(通信手続・標準)。
  • 透明性: 原則23(規則・主要手続・市場データの開示)、原則24(TR による市場データの開示)。

これらの原則は個別の FMI 類型に一律に適用されるのではなく、FMI が担う機能(決済・清算・保管・情報蓄積)に応じて適用範囲が調整される。

実例 — 日本とグローバル

日本の代表的な FMI は次の通りである。

  • 全銀システム(全国銀行データ通信システム)— 民間金融機関間の内国為替(振込)を扱う PS。全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が運営し、2018年に稼働時間を拡大(モアタイムシステム)、2023年に第7次全銀システムへ移行した。
  • 日銀ネット(BOJ-NET)— 日本銀行が運営する、当座預金決済および国債決済のシステムであり、RTGS(即時グロス決済)方式を採る。
  • JASDEC(証券保管振替機構)— 株式等の CSD。株券電子化(2009年完了)によるペーパーレス化の中核を担った。
  • JSCC(日本証券クリアリング機構)— 株式・CB・OTC デリバティブ等の CCP。国債現物・レポ取引を扱っていた JGBCC(日本国債クリアリング機構)を2014年に統合している。

グローバルでは、米国 FRB 運営の RTGS PS である Fedwire、ユーロシステム運営の RTGS PS である TARGET2、DTC(CSD)と NSCC・FICC(CCP)を傘下に持つ持株会社 DTCC、金利スワップ清算(SwapClear)で著名な世界最大級の CCP グループ LCH が代表例である。外為決済に特化した PVP(Payment versus Payment)機関としては CLS(Continuous Linked Settlement)があり、外為決済における時差リスク(ヘルシュタット・リスク)削減のため1997年に設立され、2002年に稼働を開始した。

システミックリスクの中心性

FMI は多数の参加者(銀行・証券会社等)の取引を集中的に処理するため、“too interconnected to fail” — 単一 FMI の機能停止・破綻が金融システム全体に伝播するリスクを内包する。リスク集中の裏返しとして、FMI 自体の頑健性(オペレーショナル・信用・流動性・法的リスクの管理)が金融システム全体の安定性の前提となる。

伝播チャネルは主に4つある。(a) 決済不履行の連鎖、(b) 担保・証拠金の急激な追加要求(プロシクリカリティ)、(c) 一機関の技術障害が参加者全体の決済を止める運用リスク、(d) CCP の損失分担ルール(default waterfall)発動時の参加者への波及、である。2008年金融危機以降、店頭デリバティブの清算集中義務化(G20 合意)により CCP へのリスク集中がさらに進んだため、CCP の頑健性(resilience)・再建計画(recovery)・秩序ある破綻処理(resolution)が国際的な政策課題となっている。

監督体制

国際的な基準設定は BIS・CPMI と IOSCO が PFMI の策定を通じて担い、FSB(金融安定理事会)がその実施状況をモニタリングする。多くの国では FMI に対して「監視(oversight)」を中央銀行が、「監督(supervision)」を証券・銀行監督当局が分担する複線的体制(cooperative oversight)が取られている。

日本の体制は次のように整理できる。

  • 日本銀行: 日銀ネットの運営者であると同時に、資金決済システム全般に対する「モニタリング」機能を持つ(考査・オフサイトモニタリングを通じ、日銀法上の業務として位置づけられる)。日本銀行は「金融市場インフラに関するオーバーサイト」を独自の枠組みとして公表しており、PFMI への準拠状況の自己評価(ディスクロージャー)を実施している。
  • 金融庁(FSA): 資金決済法に基づく資金移動業者・前払式支払手段発行者等の監督、金融商品取引法(金商法)に基づく金融商品取引清算機関(CCP)・振替機関(CSD)等の免許・監督を担う。
  • 主要法令: 資金決済に関する法律(資金決済法、2010年施行、為替取引・前払式証票・暗号資産等を包括)、金融商品取引法(清算機関・振替機関等の FMI 事業者に対する免許制・業務規制)、社債株式等振替法(JASDEC 制度の基盤)が中心となる。

近年の動向

FMI をめぐる国際的な議論は複数の方向で進行している。証券決済・DVP プロセスへの分散台帳技術(DLT)応用の実証実験が各国で継続しており(日本取引所グループの DLT 実証、欧州の DLT Pilot Regime 等)、既存の中央集権的 FMI モデルと DLT ベースの分散型モデルの共存・代替が論点となっている。卸売 CBDC(中央銀行デジタル通貨)が RTGS 型 PS や CSD との連携基盤として検討され、BIS Innovation Hub 等での実証(Project Agorá、mBridge 等)が進行しており、日本銀行もデジタル円の実証実験を実施してきた。

決済サイクル短縮も重要な潮流であり、米国は2024年5月に株式決済を T+2 から T+1 へ短縮した。決済サイクル短縮は CCP の証拠金所要額削減・決済リスク圧縮に寄与するとされ、日本・欧州等でも追随が検討されている。また CPMI が主導する G20 クロスボーダー送金ロードマップ(2020年策定)は、コスト・速度・アクセス・透明性の4目標に向けた国際的な取り組みを継続している。オペレーショナルレジリエンス、とりわけサイバーセキュリティや第三者(クラウド等)委託リスクへの対応も、FMI 監督の重点分野として近年強調されている。

なお、DLT・CBDC の実証状況、クロスボーダー送金ロードマップの達成度、各国の決済サイクル短縮の実施時期など、国際的な議論の進捗については 2026 年半ば時点での最新情報を個別に確認されたい。本稿は CPMI-IOSCO の PFMI(2012年公表、コア構造は概ね安定的に維持されている)という確立した規制枠組みを軸に構成しており、一次情報での個別の再確認を推奨する。

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