Economic Growth
経済成長を実質・名目 GDP 成長率として定義し、資本蓄積・労働・全要素生産性という供給側の源泉、ソロー成長モデルと成長会計、潜在成長率と現実成長率の乖離、内生的成長理論、財政・金融・構造政策という政策レバー、GDP を超える視点と脱成長論の論点を整理する。
article finance ja 経済成長を実質・名目 GDP 成長率として定義し、資本蓄積・労働・全要素生産性という供給側の源泉、ソロー成長モデルと成長会計、潜在成長率と現実成長率の乖離、内生的成長理論、財政・金融・構造政策という政策レバー、GDP を超える視点と脱成長論の論点を整理する。経済成長 — GDP 成長率の定義、成長会計、ソロー・内生的成長理論、政策レバー
経済成長(economic growth)とは、一国経済が生産する財・サービスの総量が持続的に拡大していく過程であり、実務上は実質 GDP の成長率で測定される。本稿は、名目と実質の区別を含む経済成長の定義、資本蓄積・労働・全要素生産性(TFP)という供給側の源泉とソロー成長モデル、成長会計による要因分解、潜在成長率と現実の成長率のずれ、技術進歩を内生化する内生的成長理論、財政・金融政策と構造改革という政策レバー、そして GDP を成長の物差しとすることへの批判と脱成長論の論点を扱う。景気循環(fin-43)・総需要総供給モデル(fin-44)が主に短期の変動を扱うのに対し、本稿は主として長期の産出トレンドを規定する要因に焦点を当てる。
定義 — GDP 成長率、名目と実質
経済成長は最も一般的には GDP(国内総生産)の変化率として測定される。ここで名目 GDP 成長率と実質 GDP 成長率の区別が決定的に重要である。名目 GDP はその時点の市場価格で評価した産出額であり、価格変化(インフレ)と数量変化の両方を含む。これに対し実質 GDP は基準時点の価格または連鎖方式で評価し直した産出額であり、物価変動の影響を除いた純粋な数量ベースの変化を捉える。両者の比率から得られる GDP デフレーターは物価変動を測る指標の一つである(GDP デフレーターや実質化の会計的な枠組みの詳細は国民経済計算 fin-68 に譲る)。経済成長という語が指すのは通常この実質 GDP 成長率であり、四半期比年率や前年同期比など複数の表示方法が併用される。
さらに、一国全体の産出拡大(総 GDP 成長率)と、一人当たりの生活水準の向上を近似する一人当たり GDP 成長率は区別する必要がある。総 GDP 成長率は人口成長率と一人当たり GDP 成長率の和にほぼ等しく、人口が増加する経済では総産出が拡大していても一人当たりの成長は緩やかな場合がある。生活水準の趨勢を論じる文脈では一人当たり GDP 成長率のほうが適切な指標とされることが多い。
成長の源泉 — 資本・労働・全要素生産性とソロー成長モデル
経済成長の供給側の源泉は、伝統的に資本・労働・全要素生産性(Total Factor Productivity, TFP)の三つに整理される。生産関数を Y = A F(K, L)(しばしばコブ・ダグラス型 Y = A K^α L^(1−α) として定式化される)と書くと、産出 Y の拡大は、資本ストック K の蓄積(設備投資から減耗を差し引いた純投資の累積)、労働投入 L の増加(労働力人口・労働参加率・労働時間)、そして両者の組み合わせの効率性を表す全要素生産性 A の上昇という三経路に分解できる。TFP は技術進歩そのものに加え、人的資本の質、資源配分の効率性、制度の質などを包括的に反映する残差的な概念である。
この枠組みを動学化した代表的モデルが Robert Solow(1956年)によるソロー成長モデル(新古典派成長モデル)である。資本には収穫逓減が働くため、労働と技術水準を一定とすれば、資本蓄積を続けても一人当たり産出の成長はやがて止まり、経済は定常状態(steady state)に収束する。この定常状態では、貯蓄率・投資率の水準は定常状態における一人当たり資本・産出の「水準」を高めるものの、長期的な「成長率」そのものを引き上げることはできない。ソローモデルにおいて長期的な一人当たり産出成長率を規定するのは、もっぱら外生的に与えられる技術進歩率であり、これに人口成長率と資本減耗率を加えたものが定常状態における資本労働比率を決定する。また、定常状態における消費水準を最大化する貯蓄率はゴールデンルール貯蓄率と呼ばれる。
このモデルは条件付き収束(conditional convergence)という含意ももつ。貯蓄率・人口成長率・技術水準など自らの定常状態を規定する条件が同様であれば、初期の資本蓄積が少ない経済ほど資本の限界生産性が高く、より速い成長率で自らの定常状態へ収束していく。これは、後発国が先進国の技術・資本蓄積水準に追いつくキャッチアップ型成長を説明する理論的根拠の一つとされる。
成長会計 — 産出成長の要因分解
成長会計(growth accounting)は、観測された実質 GDP 成長率を、資本投入の伸び・労働投入の伸び・全要素生産性の伸びという寄与に分解する手法である。近似的には次の恒等式で表される。
ΔY/Y ≈ α(ΔK/K)+(1−α)(ΔL/L)+ ΔA/A
ここで α は資本分配率(国民所得に占める資本への分配のシェア)であり、(1−α)が労働分配率にあたる。ΔA/A の部分はソロー残差(Solow residual)と呼ばれ、測定された資本・労働の増加だけでは説明できない産出成長の残りを表す。この残差は狭義の技術進歩だけでなく、稼働率の変化・資源再配分の効果・測定誤差なども混入しうる点に留意が必要である。成長会計は、ある国・ある期間の成長が資本蓄積主導か、労働投入主導か、生産性主導かを比較する実証分析の基本ツールとして、国際機関や中央銀行・政府統計機関で広く用いられている。
潜在成長率と現実の成長率 — トレンドと循環
経済成長を論じる際には、潜在成長率(潜在 GDP の成長率)と現実の成長率を区別する必要がある。潜在成長率とは、資本・労働をインフレを加速させない範囲でフルに稼働させ、トレンドの全要素生産性の伸びを実現した場合に持続可能な成長率であり、労働投入のトレンド(生産年齢人口・労働参加率・労働時間のすう勢)、資本ストックの増加(投資のすう勢)、トレンド TFP 上昇率という前節の三要素の長期的なすう勢によって規定される。これに対し現実の成長率は、需要側の変動(総需要総供給モデル fin-44 が扱う短期の需給ギャップ)によって潜在成長率のまわりを上下に振れる。この潜在 GDP と現実の GDP の乖離が需給ギャップ(GDP ギャップ)であり、景気循環(fin-43)とは基本的にこの現実の成長率が潜在成長率という長期トレンドから乖離し、また回帰していく過程として理解できる。
人口動態の変化、とりわけ高齢化に伴う生産年齢人口の減少は、他の条件が一定であれば一国の潜在成長率を構造的に押し下げる要因となる。多くの国の中央銀行・政府機関が独自の手法で潜在成長率を定期的に推計し、金融・財政政策の判断材料としている(推計手法や個別の最新推計値は機関・時点により異なるため要確認)。
内生的成長理論 — 技術進歩を内生化する
ソローモデルの弱点として、長期成長率を決定する技術進歩率をモデルの外部から与えられる外生変数として扱う点が指摘されてきた。これでは、なぜ国によって長期的な成長率が持続的に異なるのか、技術進歩率そのものを規定する要因は何かという問いに答えられない。この批判に応える形で1980年代後半以降に発展したのが内生的成長理論(endogenous growth theory)である。
代表的なアプローチとして、資本を人的資本まで含めた広い概念として捉え直すことで収穫逓減を回避する AK モデル(Rebelo など)、知識・アイディアが非競合的(一度生産されれば追加的な使用コストがほぼゼロ)かつ部分的にしか排除不可能であるという性質に着目し、意図的な研究開発投資が持続的な成長を生み出すと論じた Paul Romer のアイディア主導型成長モデル、人的資本の外部性(知識の波及効果)を成長の源泉とみなす Robert Lucas のモデル、そして企業間の競争とイノベーションによる新技術の旧技術への置き換え(創造的破壊)を成長の駆動力とするシュンペーター的成長モデル(Aghion と Howitt)が挙げられる。
内生的成長理論の政策的含意は、ソローモデルとは対照的に、教育・研究開発支援・知的財産保護・競争政策といった政策が一国の成長率の「水準」だけでなく長期的な「成長率」そのものに影響を与えうるという点にある。
政策レバー — 財政・金融政策と構造改革
短期的な財政・金融政策(伝統的金融政策 fin-42、金融政策の目標 fin-22 を参照)は主として総需要を管理し、現実の成長率を潜在成長率に近づける需給ギャップの調整を目的とするものであり、潜在成長率そのものを直接引き上げる手段ではないと整理されることが多い。ただし、深刻・長期化した景気後退は設備の廃棄・スキルの毀損・労働市場からの退出(履歴効果、ヒステリシス)を通じて潜在 GDP 自体を恒久的に押し下げうるため、短期の需要管理と長期の供給力は完全に独立ではない。
潜在成長率・トレンド成長率を引き上げるための供給側・構造的な政策レバーとしては、教育・人的資本投資、研究開発・イノベーション政策、インフラ投資、労働市場改革(労働参加率の引き上げ、労働移動の円滑化)、競争政策・規制改革、貿易開放、人口動態の制約に対応する移民政策などが挙げられる。財政政策も、生産的な公共投資や人的資本への支出を通じて長期的な供給力の強化に寄与しうるが、政府債務の持続可能性という制約とのバランスが問われる。
GDP を超える視点 — 成長の限界と脱成長論
GDP 成長率を経済的な成功の物差しとすることには、複数の観点から批判が向けられてきた。GDP は所得分配の不平等を捉えず、家事労働・育児・ボランティアなど市場を通さない活動を計上せず、余暇の価値を反映せず、環境負荷や資源の枯渇といった負の外部性を差し引かない(この論点の詳細は厚生経済学 fin-15 および国民経済計算 fin-68 の Beyond GDP の議論に譲る)。GDP と厚生(welfare)を同一視することへの警鐘は、GDP 統計の設計に関わった経済学者自身によっても早くから指摘されてきたとされる(具体的な発言の文脈・出典は要確認)。
こうした批判の延長線上に、経済成長そのものの持続可能性を問う脱成長論(degrowth)がある。脱成長論は、地球の資源・環境の許容量には限界があり、高所得国における物質的なスループット(資源投入・廃棄物排出)の継続的な拡大は生態学的に持続不可能であるとして、GDP 成長を政策目標とすることそのものに疑義を呈する立場であり、Herman Daly の定常状態経済(steady-state economy)論などを源流の一つとする。これに対し主流派経済学の多くは、環境負荷と GDP 成長を切り離す(デカップリングする)グリーン成長(green growth)が技術的に可能であるとして、成長の放棄ではなく成長の質の転換を志向する立場を取ることが多い。両者の当否は決着した論点ではなく、現在も活発に争われている論争であることに留意する必要がある。
関連
- 国民経済計算(fin-68): 実質 GDP・名目 GDP・GDP デフレーターなど、経済成長率の計測基盤となる SNA の会計枠組みを扱う。
- 総需要・総供給モデル(fin-44): 現実の成長率が潜在成長率から短期的に乖離する需給ギャップのメカニズムを扱う。
- 景気循環(fin-43): 潜在成長率という長期トレンドのまわりで生じる拡張・後退の反復的変動を扱う。
- 厚生経済学(fin-15): GDP を厚生の指標とみなすことの規範的な妥当性・限界を扱う。
- 古典派経済学(fin-5): 資本蓄積・分業・収穫逓減など、成長理論に先行する古典派の成長観を扱う。
- 現代経済学(fin-9): 情報の経済学・実証革命など、内生的成長理論を含む現代主流派経済学の多元化を扱う。